家庭用アーク溶接機を使った金属DIYのテクニック

はじめに

 溶接が使えると、DIYの応用範囲が飛躍的に広がります。
 DIYの目でみると、金属材料のメリットは、曲げられること、力がかかっても曲がってくれて折れないこと、水と日光に強いことだと思います。細い6mmの丸棒でも、しっかりしたものを作ることができます。
 次に、溶接のメリットは、任意の角度で金属どおしを強固に接着できることです。ネジ止めだと裏にビスが突き出るとかゆるみが生じやすいな問題を、溶接だと解決できます。
 しかし、家庭用溶接機はパワーが低いという宿命があります。これは、溶接機が悪いのではなく、家庭用のコンセントでは100V15A(1500VA)しか取れないための制限です。低圧溶接機の出力電圧は30V程度なので、1500VAだと出力電流はわずか40Aくらいです。プロは、3mmに120Aくらいを流します。全然足りないですね。
バリバリ溶接をしたい人は200V30Aの電源を引くとか、エンジン式の溶接機を使う方法もあります。でもそこまでせずにDIYを楽しみたいですよね。そこで、素人が、100V15Aの限られたパワーで、ちょっと上手に溶接するために、試行錯誤の末に編み出した(^_^)、経験的な邪道(?)テクニックを紹介します。職人さん、見逃してください。

 本来の溶接は周囲の母材と完全に一体化し強度もほぼ同じになるものです。しかし、家庭用溶接機では本来の溶接強度(平板と同程度の強度)は得られないと割り切ってください。Wikipediaの「溶接」などには「一次入力電圧が100Vのタイプはほとんど使い物にならない。」とまで言っています。特に職人の方々の評価はそうです。こういうプロの方々は、建物を支えるH字鋼どおしの溶接とか、車のフレームをつくるとか、そういう何百キロ、何百トンというところで使う溶接をやっています。DIYとは住む世界が違うのです。ですから、 1500VAでは力や振動のかかる車の支持部品なんかは作らない方がいいです。出力に100A以上は必須です。
 1500VAでの溶接は、プロが仕事でやっているような大物には使えません。でも、3mm厚の板とか、6mmφの丸棒なら、せいぜい100kgくらいの荷重に耐えるくらいなら、つけられます。荷かけフックくらいならなんとかなりそうです。溶接電流40Aでの溶け込みは1〜1.5mmくらいです。母材の厚さ全体を溶接するのは結構たいへんです。
でも、裏表で溶接すれば3mmくらいにはなんとかなります。弱いとは言っても、ロウ付けやボルト止めよりは強力な接着が短時間で得られます。またボルト止めは両端にボルト・ナットが飛び出して怪我の原因などになりますが、溶接ならつるつるに仕上げられます。DIY用途なら、充分に役にたちます。

 このように、1500VAでの溶接は、低いパワーとの戦いです。そして、ここに記すパワーを補うテクニックを駆使すると、すこし限界を超えたり、いつも上手に溶接したりすることができます。



 なお、書籍「日曜大工で楽しむ金属DIY入門」は熟読すること。というか、他には金属DIYの参考書ないでしょ。

 ただ、あの作品例を見ていると、1500VAよりもっとパワーがいるような気がするんだけどなー。特に薪ストーブなんかは絶対ウチの溶接環境じゃムリ。あの大きさじゃ溶けない。

 Wikipediaの「溶接」、「アーク溶接」、「被覆溶接」の項も、基礎知識として重要。

 先日見つけた「アーク溶接入門」 これはプロが使う溶接の解説。基礎知識としてためになる他、プロとDIYの世界が違うことも実感できる。


溶接のための準備

◎ 溶接机はボロボロになるので、ベニヤ等で作ると良い。
◎ 作業台は、4mm×60cm×40cm程度の鉄板を使用し、耐熱レンガを足にするなどして、机から4cm程度浮かす。
◎ 作業台の端に5cm×10cm程度の銅板を乗せ、そこをアースクリップで挟み、作業台自体をアースする。この銅板は、溶接棒をプレヒートする目的にも使う。
◎ 溶接面は、自動遮光で頭からかぶるものが絶対に良い
◎ 溶接機は、出力電圧調整(パワー調整)の可能な物を選ぶこと。15,000円くらいである。パワー調整は非常に大切。出力調整のできない溶接機が7000円くらいで売っているが、溶接できる範囲がかなり制限されると思う。100V/200V兼用にしておくと、家に200Vを引いたときにも使えるので便利。
 交流式より直流インバーター式の方が同じ電力で3割増しのパワーらしい。欲しいけど高価。
 半自動溶接機は、操作が簡単で良いらしいが、使ったことないのでわからない。溶接ワイヤーが高価。
◎ 溶接機には延長ケーブルはできるだけ使わないこと。パワーを明らかにロスします。
◎ 材料は、6mm丸棒と3mm平板を基準に考えると、接着が容易で作業性が良い。6mm丸棒は30cmくらいあれば手でも曲げられるので形の修正が容易。9mm丸棒や6mm平板は、切るのも曲げるのも溶接するのも大変。一方1mm厚以下の材料はすぐに穴があいてしまいアーク溶接は難しい。
◎ 保護具はしっかり装着すること。溶接面の他に、専用皮手袋、木綿の前掛け、足カバーと革靴は必須。
◎ 溶接光が周りに迷惑をかけるので、ベニヤで3面の壁を作る。この壁は、クリップライトをつけたり、母材をたてかけて支えるなどの役割も果たすので、あったほうが便利。コンパネを3枚に切って、3面鏡のように開くように針金でくくるとよい。

前処理、母材の仮固定

◎溶接部位の錆、オイル、ペンキなどはディスクグラインダーで研磨して除去する。
◎母材をバイスクリップや治具を駆使して固定する。
◎母材の断端処理
 溶接部位の母材間にもうける溝の事を開先という。
 母材をつきあわせて溶接する時(I型継ぎ手)には、母材断端どおしを完全に接触させて上から溶接するとうまくいかない。少しすき間をあける事。間隔は板厚程度以上と言われるが、これは板厚以上の溶接棒を使う場合の話。板厚より細い1.6φ溶接棒を使う場合には溶接棒の直径より狭い1mm以下くらいが適当。意図的に深く溶け込ませる時にはこの隙間に溶接棒を押し込むようにして両側の母材を溶かしながら溶接する。押し込んでいくと裏に溶けた鉄が流れ出るので、0.2mm厚程度の薄い銅板を裏に当てる(ウラガネ)。銅板にする理由は、溶接時に接着しないためと、薄い鉄板だと溶け落ちるため。
 母材間がV字型になるように削る(V型)か、裏表ともV字にするよう削り両面から溶接する(X型)と溶け込みはさらに良くなる。
 T字継ぎ手のように溶接する境界が90°以上で開いていると付きやすい。

◎できるだけ両面から溶接する。
 本来3mmの板厚を溶接するときには、3mmφの溶接棒で100Aくらい流し、一気に板厚分溶かして溶接し母材を一体化します。
 しかし1500VA家庭用電源では30〜50Aくらいなので絶対的に熱不足で、溶け混みは1mm程度から1.5mmがせいぜいです。
 確実な溶接のためには、X型開先を作り、両側からじっくり溶接する必要があります。
 また、家庭用溶接機では本来の溶接強度(平板と同程度の強度)は得られないことを念頭に置く必要があります。

◎母材を作業台に固定して作業すると固定とアースが一度にできて非常に便利。
 この時のコツとして、作業台の鉄板から溶接部位を浮かす。溶接部位と鉄板が密着していると、溶接の熱が作業台に逃げ温度が上がりにくく、溶接失敗しやすい。



◎長物の場合、片側だけの固定でも母材は浮くが、溶接部が熱で柔らかくなり自重で曲がる。溶接部の両側を固定すること。



溶接
◎溶接開始部位を、ガストーチで母材を5〜10秒プレヒートする。少ない熱量を少しでもカバーします。
銅板の上で2〜3秒アークを飛ばして溶接棒をプレヒートする。
 アーク溶接は最初にアークを飛ばすまでが難しいと言われるが、これは暖まっていない溶接棒はアークが飛びにくく、しかも母材と接触した瞬間に母材にくっつきやすいため。銅板は融点が高く、アークをとばしても溶接棒がくっつかないので、容易にアークをスタートさせることができ、先端を暖めることができる。アークを切った時に溶接棒の先端が橙に光るくらいに暖まったら、速やかに溶接を開始する。
◎溶接が適切に行われると、肉眼では溶接部位全体が赤く鈍く光るくらいに暖まる。この光が消えたら、ピッチングハンマーでスラッグを真上から強く叩き割り、外す。

溶接温度の調節
◎材料の断端は熱が溜まりやすく、中央部は熱が逃げやすい。
◎無風時は熱がたまりやすく、強風下では熱が逃げやすい。

◎うまく溶接できると、溶接部は溶けた鉄が流れたような感じになる。

うまくいかなかったときの原因:
 電流が強すぎると、スパッタが多くなり、ビードの幅はひろく、溶接表面は汚くなる。溶け込みは大きい。アンダーカット(材料が流れおちて溝になる)が生じやすい。まぁこんなことはまずない。
 電流不足だと、ビードがとぎれとぎれになり、孤立した島状になる。スパッタはほとんどないが、溶け込みは不十分になり、オーバーラップ(イモハンダ状態)を作りやすく、盛り上がる。

 運棒が早すぎると、ビードの幅が狭く、ビードがとぎれとぎれになり、ビードの波形がとがっている。
 運棒が遅すぎると、ビードの幅が広く、盛り上がり、ビードの波形の丸みが少ない。

 アークが長すぎると、ビードガ不揃いになり、とけこみも少なく、スパッタが多くなり、溶接部の性質は悪くなる。
 アークが短すぎるビードの幅が狭く、凹凸が激しくなる。

◎熱不足の場合には、溶接の電流を上げ、母材をガストーチでプレヒートし、ゆっくり運棒し、ウイービングを行い対処する。

◎ガストーチによる母材のプレヒートは、母材の温度が上がることで、溶接温度になるまでの無駄な時間が短縮され、必要な溶接棒の量も減り、溶接面もきれいになるとよいことずくめである。理由は下記。
・溶接は母材が溶接温度に上昇するまではきれいな溶接にならず、時間と溶接棒を消費するのみである。
・プレヒートにより、溶接での上昇温度が半減し、適正温度になるまでの時間が短縮する。
・プレヒートにより、溶接部だけでなくその周囲も温度が上がるので、溶接時に周囲に逃げる熱が減る。
・溶接温度になるまでの間に溶けた溶接棒は、きれいに溶けず溶接部をきたなくし、大きく盛り上がりがちな邪魔な存在である。特に溶接部が小さいときにはその量は邪魔である。プレヒートにより、この量を減らすことができる。

◎ウイービングは、本来はビードの幅を広げ盛るために運棒を溶接棒の3倍くらいの幅で蛇行させるテクニックだが、
 ここで言うウィービングは、熱不足を補い溶接部に熱を集中させ、しかもビードが盛り上がらないようにするための家庭用溶接機に必須のテクニックである。




溶接後
◎溶接部位は、溶接後10分程度は手で触れないほど熱いので、ふれないよう安全に配慮する。特に、周囲の人に注意。急激に冷却するとクラックが入る原因になりプロの場合には禁止だが、素人細工DIYでは品質以上に自分と周囲の人の安全が優先するので、私は必要に応じ水で冷却している。
◎なお、軟鉄は焼き入れや焼き鈍しの効果はない。