飛沫感染防護簡易アイソレーター試作のための技術的検討
菊池 均、野田 千津子、古川 徹也、石塚 紀元 (成田空港検疫所 検疫課)



【研究の目的】
 感染症患者搬送の際の汚染防止のため、当所には1978年にVickers Medical社製の陰圧型トランジットアイソレーターが1台配備されている。多機能であるが、価格も非常に高価なため、使用後は消毒してから再利用する必要があり、搬送後すぐに使用することはできない。一方飛沫感染感染症の場合には空気感染防護は必要でないが、マスクだけでは不安が残る。
そこで、ストレッチャーの上に軽量のフレームを乗せ、これにビニールをかぶせて固定する飛沫感染防止アイソレーターを試作した。空気感染感染症でも飛沫感染防護は主要感染経路であるので空気感染アイソレーターを使用できない場合の次善の方法としても有用であると考えられる。試作の経験に基づき、材料と加工方法について検討した。

図1. 飛沫感染防護簡易アイソレーターの構想図

【材料と方法】
 材料および工具は近隣のDIYショップ「ジョイフルホンダ富里店」および「カインズホーム八街店」で入手し、加工性や強度を検討した。金属加工の入門書として文献1を参照した。技術指導は日本航空の技術者に依頼した。使用した溶接機はスター電器製造のSuzukid NOVA120を使用し100V電源で使用した。溶接棒は低電圧用溶接棒スターロードB-1の 1.6mmφを使用した。溶接面は液晶式自動遮光溶接面クイックシェードを使用した。

【結果】
 フレーム材料として、軟鉄とステンレスと木材を比較した。軟鉄は錆びる欠点があるが、加工が容易で、溶接、銀ろう付け、半田付けなど多様な接着方法があり、また材料が安価であるため、軟鉄を選択した。
 フレーム材の形状として、パイプと丸棒を比較した。パイプは強度の割に軽量であるが一度折れると著しく強度が落ちるため丸棒を選択した。ビニールシートを支える目的には6mmφで充分な強度が得られた。
 ビニールシートは、フレームサイズから、幅2.3m、厚さ0.1mmの農業用ビニールシートを4m使用した。
 ビニールシートをフレームに固定するには、ビニールハウス用プラスチック「シャクトリムシ5mm」が、操作が簡便でビニールを破かずに固定でき適した。
切断はディスクグラインダーと切断砥石を用い、切削・研磨にはオフセット砥石(#36)を用いた。作業の際には材料が高温になるので軍手での防護を行った。周囲に熱い鉄粉が飛散するため必要に応じベニヤ板などでの遮蔽が必要であった。
 接着にはアーク溶接機を用いた。アーク溶接は溶接棒と母材の間でアークをとばして母材と溶接棒を溶かして一体化させる。アーク溶接の際には強い紫外線が発生し目を保護するための保護面を使用する。色の変わらない遮光溶接面は溶接を開始するまで溶接部位が見えないため作業が難しかった。アーク光を自動検出し遮光する液晶式自動遮光溶接面を使用することで手技が容易になった。手技の習熟には反復練習が必要であった。3mmまでの平板、12mmまでの丸棒の溶接が可能であった。
 曲げ加工には曲げ治具を自作した。6mmの丸棒を半径4.5mmで180°まで曲げることが可能であった。
 これらの材料と手技を用い、数種類の形状を試作した。最も実用性が高いと判断されたものを図2に示す。足を折り畳めるようジョイントを4カ所使用した。ジョイントの構造を図3に示す。軟鉄針金をリベット止め加工で固定し、安価で堅牢で溶接の熱に耐えるジョイントを作成することができた。
このアイソレーターの重量は約2.5kg、原価は約2,000円であった。


図2. 作成したアイソレーターの構造図


図3. ジョイントの構造

【考察】
 DIYの技術を用い、実用強度のアイソレーターの自作が可能であった。自作の限界として使用できる材料や加工方法には限界があったが、一方自作の利点として、希望する形状を作成できること、試行錯誤を繰り返せること、必要な形状に合わせて形状や構造を柔軟に修正できることがあげられた。従って使用できる加工法や材料の範囲内で設計を行うことで、充分実用になる試作品の作成と検証が可能であった。現物を作成しながら検証を行うことで、必要な形状や機能を具体的に検討することが可能であった。
今後の課題として、他の形状、たとえば上半身だけをカバーする形状や車椅子用の形状など、種々の形状への応用が考えられた。またHEPAフィルターつきエアポンプを組み込むことで空気感染感染症用アイソレーターへの応用が考えられた。
【謝辞】
 金属加工の訓練指導および設計の助言をいただいた日本航空の山下 暁氏に感謝をいたします。
 本研究は平成17年度検疫所研究課題「感染症患者搬送用の飛沫・接触感染防護用簡易アイソレーターの試作と評価」で実施されました。

【参考文献】
1. 日曜大工で楽しむ金属DIY入門、山海堂