ワクチン接種諮問委員会による黄熱ワクチンに関する勧告
 MMWR、 11月8日/51(RR17);1-10

要旨

この報告はCDCの黄熱ワクチン使用のための勧告(CDC ワクチン接種諮問委員会による黄熱ワクチン接種に関する勧告: MMWR 1990;39[No.RR-6]1-6)の更新である。

2002年の勧告では

1)黄熱ワクチンに伴う臓器障害(従来は熱性多臓器不全として報告された)

2)妊娠中の女性およびHIV感染者での黄熱ワクチン接種

3)他のワクチンと黄熱ワクチンの同時接種に関する新たなあるいは更新された情報を含む。この報告および他の黄熱に関する情報へのリンクはCDC, 国立感染症センター、国際的移住および検疫部門のTraveler's Healthのウェブサイト(http://www.cdc.gov/travel/index.htm)あるいは媒介動物による感染症部門のウェブサイト(http://www.cdc.gov/ncidod/dvbid/yellowfever/index.htm)で閲覧可能である。

内容

序論

黄熱ワクチン

黄熱感染常在地域に居住するあるいは旅行する個人へのワクチン接種

研究所職員

国際旅行に際しての必要なワクチン接種

初回ワクチン接種

追加接種

安全性、全身性反応

黄熱ワクチンに伴う神経障害

黄熱ワクチン接種に伴う臓器障害

米国市民に発生した黄熱ワクチン接種に伴う臓器障害

米国市民以外の被接種者に発生した黄熱ワクチン接種に伴う臓器障害

追加的な症例報告

症例報告要約

注意と禁忌

年齢

妊娠

授乳中の母親

免疫不全状態

過敏反応

他のワクチンとの同時接種

サーベイランス及び研究の優先順位

序論

黄熱はアフリカと南アフリカでのみ発生している。世界保健機構(WHO)は毎年合計で20万例の黄熱患者が発生している推計している。黄熱の臨床像は、不顕性感染から重篤な全身性の疾患まで広範囲である。黄熱は3-6日間の潜伏期の後、急性に発病し、通常発熱、衰弱、頭痛、羞明、腰仙部痛、膝関節を含む四肢痛、上腹部痛、食思不振、および嘔吐などの症状を呈する。病態は肝腎不全にまで増悪する可能性があり、血小板減少と凝固系異常が原因の出血傾向も出現しうる。重症の黄熱の致死率は約20%である。

診断確定は血液・組織検体からのウイルス分離や免疫組織化学法(IHC)、ELISA法、PCR法を用いた黄熱ウイルス抗原やウイルス核酸の確認による。病期最初の1週間には必ずしも抗体の誘導が認められないが、捕捉ELISA法による抗黄熱ウイルスIgM抗体が確認でき、かつ急性期と回復期の間に中和抗体価で4倍以上の差が認められるならば陽性と診断できる。

黄熱の治療は総合的な支持療法からなり、その内容はどの臓器系が障害を受けているかによる。黄熱に対する効果的で特異的な抗ウイルス治療は確立されていない。

往年は都市型黄熱と森林型黄熱という2型に疫学的には区別される。臨床的にも病因論的にも両者は同一である。都市黄熱はネッタイシマカによる感染患者から感染感受性のある個人へ感染伝播される流行性のウイルス感染症である。この蚊族は住宅内やその周囲の溜まり水に産卵し、ヒトの生活圏に密接に入り込んでいる。ネッタイシマカが根絶されたり抑制された地区では、都市黄熱は発生しない。20世紀半ばに、多くの国々(特にパナマ、ブラジル、エクアドル、ペルー、ボリビア、パラグアイ、ウルグアイ、アルゼンチン)でネッタイシマカが根絶され、都市黄熱が発生しなくなった。記録されている西半球最後のネッタイシマカが媒介した黄熱は1954年のトリニダードで発生した。しかし最近数年、以前はネッタイシマカが根絶されていた国々で再び発生している。ネッタイシマカは1989、1990、および1998年にボリビアで発生した流行を感染伝播したと強く疑われている。ベネズエラおよびギアナの一部地区を含む他の諸国では完全には根絶されていない、そうした諸国には森林型黄熱の動物での流行地区も存在している。アフリカではネッタイシマカによる感染伝播が原因の黄熱流行が継続して発生しており、都市、辺地ともにヒトでの感染も発生している。

森林型黄熱は主にネッタイシマカとは異なる媒介蚊によるヒト以外の霊長類宿主間で感染伝播される動物での流行性ウイルス性感染症である。この感染症は熱帯アフリカの森林-サバンナ域および南アメリカの森林地域でのみ認められるが、かつては中央アメリカの一部地区へも時に拡大した。またトリニダード島のジャングルでも動物で流行している。南アメリカでは、年間約500例のヒトでの患者が報告されているが、そうした患者は主に森林地区で職業的に感染曝露を受ける人々で発生している。しかしこの患者数は実態よりも過小に報告されている。アフリカでは木のほらに産卵する蚊族を流行等で断続的に数千人が感染しているが、公式に報告されている患者数は非常に限られている。時にはある地区で数年間も確認されずに、いきなり再発生することもある。感染流行域を限定するためには、動物宿主、媒介蚊に関するサーベイランス、正確な診断、ヒト患者全例の迅速な報告が必要である。黄熱感染常在地区内にある諸国の森林地区では、森林型黄熱サイクルが活性化されていても認識されていない可能性がある。都市型黄熱は、感染が持続しないように感染の危険性のある住民にワクチン接種を行ったり、ネッタイシマカを抑制することで防止することが可能である。

黄熱ワクチン

黄熱ワクチンは17D黄熱ウイルス株から作製された弱毒生ワクチンである。歴史的に、17Dワクチンはこれまでに開発されたワクチンの内で最も安全性が高く、最も効果的なワクチンの1つと考えられている。ウイルスは固定された継体レベルの種ウイルスを植え付けられたニワトリ胚で増殖する。17D黄熱ワクチンウイルス系には17D-204系と17DD系の2系列が存在する。17D-204系は米国とオーストラリアで使用され、17DD系はブラジルで使用されている。2つのワクチン株はその遺伝子の99.9%の配列が一致している。

17D-204株YF-VAXワクチン(ペンシルバニア州、Swiftwater, Aventis社製)は鶏卵胚ホモジェネートの遠心上清の凍結乾燥物であり、国内向けには1人用、5人用バイアルに包装されている。ワクチンは接種時にメーカーが供給する希釈液(滅菌生理的食塩水)を加え再溶解するまでは2-8℃で保管することが必要である。多人数用バイアルの再溶解したワクチンも2-8℃に維持することが必要である。残ったワクチンは再溶解後1時間以内に廃棄すべきである。

黄熱感染常在地域に居住するあるいは旅行する個人へのワクチン接種

黄熱感染が公式に報告されている南アメリカとアフリカの地域を旅行する、あるいは居住している9ヶ月齢以上のヒトはワクチン接種を受けるべきである。こうした地域は州あるいは地区の保健当局で閲覧可能な「検疫が必要な疾患の汚染地域の存在する国についての隔週報」に列記」されている。感染が確認されているあるいは疑われる地域に関する情報もWHO(http://www.who.int), 汎アメリカ保健機構媒介動物による感染症部門、CDCの国際移民および検疫部門から入手可能である(http://www.cdc.gov/travel)。

公式には黄熱発生が報告されていないが、黄熱感染常在地帯に位置する諸国への旅行の際にもワクチン接種は勧奨される。最近数年間にも、欧米から黄熱感染常在地帯にある辺地を訪れたワクチン未接種の旅行者に黄熱による死亡患者が発生している。サーベイランスが不完全なため、黄熱ウイルスが活動性を示す真の地域は、各国の保健省によって公式に報告される感染域よりも広範囲である可能性がある。

製薬メーカーと食品医薬品局(FDA)は脳炎の危険性があるため9ヶ月齢未満の乳児への黄熱ワクチン接種を行わないよう勧告している。またそうした乳児の黄熱感染常在地域や流行の発生したことのある国々への旅行は可能な限り延期あるいは中止すべきであるとも勧告している。9ヶ月齢未満の乳児への黄熱ワクチン接種は公式には評価されていない。1945年以来、報告されたワクチン接種に伴った脳炎患者中9ヶ月齢未満の症例は、ワクチン接種後脳炎を発病した6および7ヶ月齢の乳児例2例のみである。比較すると、4ヶ月齢以下の乳児に発生した接種後脳炎患者数は14例であるのに対し、3歳以上で発生した患者数は7例(3歳と53歳の2例の死亡患者を含む)である。最近では6ヶ月齢未満での乳児へのワクチン接種が限られていること、また年齢特異的なワクチン接種記録が利用できないことから、黄熱ワクチンに伴った脳炎の年齢特異的な発生率は算出することが困難である。特別な事情で9ヶ月齢未満の乳児や妊娠中の女性への黄熱ワクチン接種を考慮している臨床医は媒介動物による感染症部門かCDCの国際移民検疫部門へ連絡すべきである。

こうした情報がないにもかかわらず、ACIPとWHOは9ヶ月齢未満の乳児への黄熱ワクチン接種が考慮される事態が発生する可能性があることを承知している。こうした状況の1つは、黄熱ウイルスに感染する危険性が増加するような環境に6-8ヶ月齢の乳児を置かざるを得ない時である(黄熱感染常在あるいは流行)。脳炎の危険性があるため、6ヶ月齢未満の乳児には黄熱ワクチン接種を行うべきでない。

妊娠中の女性では他の健康な女性に比較してワクチンによる抗体誘導率が著しく低下するため、特異的な抗黄熱抗体誘導が起きているか確認するための血清検査を考慮すべきである。血清検査の必要性を議論するには、適切な州保健局、媒介動物による感染症部門かCDCの国際移民検疫部門へ連絡すべきである。

研究所職員

病原性のある黄熱ウイルスや高濃度の17Dワクチン分画に直接、間接、あるいは飛沫で曝露される可能性のある研究所職員はワクチン接種を受けるべきである。

国際旅行に際しての必要なワクチン接種

国際的な旅行目的に、全世界の異なる製薬メーカーによって製造される黄熱ワクチンはWHOによる承認が必要で、承認された黄熱ワクチンセンターで接種を受ける必要がある。CDCの国際移民検疫部門に加えて、州および地区保健当局は連邦政府と関係しないワクチンセンターを選定する権限がある。被接種者はワクチン接種時に完全に記述され、接種者が署名し、センターの認印で確認された国際ワクチン証明書を受け取る必要がある。国際旅行のためのワクチン接種はこの報告が特定する状況以外でも必要となる可能性がある。アフリカの一部の諸国では入国者全員にワクチン証明を要求している。その他の諸国は黄熱の危険性が実質的に存在しないと証明されているか地域からの入国者か、滞在が2週間未満の入国者への証明要求を放棄している。要求は変化する可能性があるため、旅行者全員が保健省、CDCおよびWHOから最新情報を入手すべきである。旅行代理店、国際航空会社、船舶会社も最新情報を入手しておく必要がある。一部の国では、たとえ乗り継ぎであっても、黄熱が存在すると確認されているか考えられている国々から入国した場合には、国際ワクチン証明書を要求している。こうした要求はアフリカや南アメリカからアジアへ旅行するヒトを含め、厳格に強制される可能性がある。ワクチン接種の要求と規制を判定するために、旅行者はCDCの旅行情報ウェブサイト(http://www.cdc.gov/travel) を利用すべきである。

初回ワクチン接種

ワクチン接種を受けるヒトは年齢に関係なく、再溶解したワクチン液0.5mlを1回皮下に接種する。

追加接種

国際保健規約では10年後との追加接種を求めている。追加接種によって抗体価が上昇するが、多くの研究からは黄熱ワクチンによる免疫は30-35年、そして恐らく終生持続することが示されている。

安全性、全身性反応

17D黄熱ワクチンに対する反応は通常は軽度である。ワクチン接種後、被接種者は5-10日間軽い頭痛、筋痛、微熱やその他軽症の症状を訴えることがある。症状を積極的に聴取した臨床治験では、軽症の副反応率は25%以下であった、被接種者の1%が日常生活に支障が出る。

発疹、蕁麻疹、喘息などが特徴の即時型過敏症は一般的でなく(推定される頻度は1/13万回-25万回)、主に卵やその他にアレルギー歴のある個人で発生する。黄熱ワクチンを含め多種類のワクチンでゼラチンは安定剤として使用されている。他のワクチンに伴うアレルギー反応の原因にゼラチンは含まれているので、黄熱ワクチンに関しても同様の可能性が予想される。初回ワクチン接種の際には健常人でもしばしばワクチン株ウイルスによるウイルス血症が生じるが、通常接種後1週間以内に軽快・消失する。

黄熱ワクチンに伴う神経障害

歴史的に、小児での黄熱ワクチンに伴う神経障害(以前はワクチン接種後脳炎として知られていた)は黄熱ワクチンに伴う最も一般的な重症の副反応である。1945年に17D株シードロットシステムが導入以来、全世界で科学文献に報告された17Dワクチン接種との関連が一時的に疑われたかあるいは17Dワクチンが原因と確認された脳炎患者は23例のみである。その内16例が9ヶ月齢以下の乳児に発生した。他の7例は3-76歳であった。米国内でワクチン接種に伴って脳炎を発症したのは3例のみである。

1例目は1959年に10週齢の乳児で発生した。

2例目は1965年に3歳の小児で発生した。

3例目は1998年に76歳の高齢者で発生した。

3例中1例が死亡し、この患者の脳から17Dウイルスが分離された。1965年以降、米国内での黄熱ワクチン接種に伴う脳炎患者が科学文献に報告されたのは1例のみである。患者は76歳男性で、黄熱ワクチン接種に伴う神経障害の他臓器障害も併発した。最近の黄熱ワクチン接種に伴う神経障害が疑われた患者は2002年にタイから報告されたが、患者は53歳男性で後にHIVに感染していたことが判明した。最近、ワクチン副反応報告システム(VAERS)に黄熱ワクチン接種後4-23日後に脳炎を発症した成人の被接種者4例(年齢は16、36、41および71歳)が報告された。黄熱ワクチン接種に伴う神経障害の発生は乳児に限って発生するのではないが、その発生は極めて限定されている様である。黄熱ワクチン接種に伴う神経障害の危険率は80万人分の1以下と推計される。

黄熱ワクチン接種に伴う臓器障害

最近、異なる種類の黄熱ワクチンの被接種者に新たな重症の副反応が記録されている。この症候群は以前熱性多臓器不全と報告されていたが、現在では黄熱ワクチン接種に伴う臓器障害と呼ばれている。2001年7月、この症候群の初の患者7例が科学論文で公表された。これらの症例は1996年から2001年の間に発生し、その病態は多臓器不全であった。患者7例中6例が死亡した。次いで、後向き症例検討、前向き症例検討によって別の疑い例3例が確認された。これらの追加的な症例からは、この重症の副反応は、軽症で局所的臓器不全から多臓器不全や死といった重症型まで臨床的な重症度に幅のある病態である可能性が示唆された。

最近黄熱ワクチンについてのプラセボを置かない第3相対照臨床治験が完了した。そこでは1440名の健常ボランティアに無作為に2種類の17D-204黄熱ワクチンであるARILVAX(英国、リバプール、Evans Vaccines Speke社製)またはYF-VAX(ペンシルバニア州、Swiftwater, Aventis Pasteur 社製)のいずれかが接種された。副反応は接種後30日間積極的にモニターされた。プラセボ群が含まれていないので、結果の解釈が一部制限されるが、両群の3-4%被接種者で接種直後10日間に軽度の肝酵素の上昇が認められた。この肝酵素の上昇は接種30日後までには全例で正常化した。最終的には、経験的に積み上げられた証拠からは黄熱ワクチン接種に伴う臓器障害の危険性が最も高いのは初回免疫後の個人であることが示された。これまでに報告された全例がこうした被接種者発生した。加えて、黄熱ワクチンの軽症の副反応も2回目以降の接種者では頻度が低く、追加接種を受けた個人ではワクチン株によるウイルス血症は確認されない。

米国市民に発生した黄熱ワクチン接種に伴う臓器障害

1996年から1998年の間に、米国市民4名(63歳、67歳、76歳、79歳)がYF-VAX接種2-5日後に発病した。4名全員が、発熱、低血圧、呼吸不全、肝酵素上昇、高ビリルビン血症、リンパ球数減少、血小板減少などを呈し集中治療が必要となった。4名中3名は透析が必要となった腎不全を呈した。4名中3名が死亡した。

患者4例中2例ではウイルス分離用採血が行われた。ワクチン接種後7-8日後の両方の患者血液からワクチン株ウイルスが分離された。患者が脳炎を呈している際に採取された検体からウイルスが分離された。発病後28日目に肝生検を施行した米国の患者からの肝検体で、肝細胞壊死を伴わない軽度の門脈周囲の炎症が観察された。免疫組織化学検査では極一部のKupper細胞にのみ黄熱ウイルス抗原が確認された。

米国では、1990年から1998年に米国内の一般市民ワクチン接種センターに頒布された約155万人分のYF-VAXに関する安全性モニターデータが存在する。この期間にVAERSには4例の黄熱ワクチン接種に伴う臓器障害患者が報告された。これは接種100万人当たり約2.5例の発生率となる。同時期の観察期間(1990-1998年)にYF-VAX は約900万人の軍関係者にも接種された。VAERSのデータを基にした推定の発生率はさまざまな制限(報告されない症例、実際に接種された件数についての不正確な情報、その中には唯一ではないが主要な高リスク群である初回ワクチン接種者への接種も含まれる)から実際よりも低値である可能性がある。

米国市民以外の被接種者に発生した黄熱ワクチン接種に伴う臓器障害

米国で報告された症例に加え、2001年にオーストラリア市民1名(56歳)が17D-204黄熱ワクチン接種後発病し、1999年と2000年に、ブラジル市民2名(5歳、22歳)が17DDワクチン接種3-4日後に発病した。17DD株は、米国とオーストラリアで使用されている17D-204株とは異なっているが、両株は同一の原ウイルス株(17Dウイルス)由来で、非常に類似している。ブラジル人とオーストラリア人症例の場合は、肝での組織病理学的変化には、黄熱ウイルス野生株で特徴的な所見である、中間領域壊死、微細小胞性脂肪変性、Councilman小体が含まれていた。2名の17DDワクチン被接種者からの肝検体では免疫組織化学法によって、中間領域壊死部に黄熱ウイルス抗原が確認された。また17D-204ワクチン被接種者からの肝検体では電子顕微鏡検査で中間領域壊死部に黄熱ウイルスと考えられるフラビウイルス様粒子が確認された。これら3例の患者のそれぞれで血液と剖検検体(脳、肝、腎、脾、肺、骨格筋)から黄熱ワクチンウイルス(17DD あるいは17D-204)が分離された。これらの患者3例は全員がワクチン接種8-11日後に死亡した。

ブラジルでは、6カ月間に2例の黄熱患者が報告された際、15カ月間に渡ったワクチン接種キャンペーンで約2300万人分のワクチンが配布された。以上からブラジルでの黄熱ワクチン接種に伴う重症の副反応発生率は概算で0.09/接種100万人となる。しかしこの推計には条件が付く。第1に、ワクチンキャンペーン中接種されたワクチン数は実質的にワクチン被接種者数を上回っている。それは一部の接種者は複数回ワクチン接種を受けたからである。第2に、ブラジルでの経験から被接種者のおよそ半数はすでに黄熱ワクチンの接種を受けたことがあり、理論上そうした人にはこの種の副反応の危険性がないためである。最後に、分子の方は公式なサーベイランスシステムによるのではなく公表された症例研究からのみ取り上げており、それゆえこの副反応を呈した症例の実数よりもおそらく少数であろう。

患者から回収された17DDワクチンウイルス遺伝子には病原性の再獲得と関係した遺伝子変異は確認されず、実験動物でもワクチン株の表現型を示したので、ブラジル当局は副反応の原因を未確認の宿主側因子と推定している。

追加的な症例報告

黄熱ワクチン接種後の重症副反応を呈した別の3症例が科学論文として報告されている。これらの3例は年齢が45, 50, 71歳で、発熱、肝酵素上昇、腎機能異常で入院が必要であった。3例全員が回復した。検査された1例の血液検体から黄熱ウイルスが分離された。黄熱ワクチン接種後のワクチン株ウイルスによるウイルス血症は健常人でもしばしば認められるが、通常は接種後7日以内に減衰するか消失する。患者2例で黄熱ウイルスに対する抗体が検査され、その内の1例では異常に高値の抗体価が確認された。別の1例では接種後3日間は抗体価の上昇が持続した。

症例報告要約

ブラジル、オーストラリアでの症例では、組織病理学的検討、血液以外の複数の臓器から遺伝子的に安定したワクチン株が分離されたこと、ワクチン接種と発病との時間的な関連などから、黄熱ワクチン接種に伴う臓器障害と17DDあるいは17D-204黄熱ワクチン接種間の因果関係が支持される。以上のように17DDおよび17D-204黄熱ワクチンの両方共に希ではあるが、黄熱ウイルス野性株が原因の劇症の黄熱に類似した黄熱ワクチン接種に伴う臓器障害の原因と成りうることを銘記すべきである。適切な前向き研究データがないため、この希な黄熱ワクチン接種に伴う臓器障害の発生率を正確に定量するのは不可能である。しかし報告されている発生率の概算は、ワクチン100万人分当たり0.09(ブラジル)から2.5(米国)である。実際の発生率はこれより高い可能性がある。

米国内で発生した黄熱ワクチン接種に伴う臓器障害患者の大部分では組織検体が得られなかったため、因果関係を検査で確認することは出来なかった。しかし、発病間近に黄熱ワクチンの接種を受けたこと、米国内で発生した患者4例で臨床症状が類似したことからこれらの患者でも黄熱ワクチンが原因であった可能性が高い。宿主側の因子(先天性、後天性)あるいは基礎疾患が、黄熱ワクチン接種に伴う臓器障害の経過、結果に関係しているか、もし関係しているとすればどの様に関係しているかは不明である。

最近黄熱が常在感染する地区をワクチン未接種のまま訪れた旅行者に黄熱感染死が報告された一方で黄熱ワクチン接種に伴う臓器障害が報告されていることから、臨床医は真に黄熱の感染曝露の危険性がある個人にのみ黄熱ワクチンを投与するよう注意すべきである。黄熱ワクチン接種に伴う副反応をより正確にモニターしその発生率を定量するためサーベイランスの強化が必要である。17D黄熱ワクチン接種に伴う希な副反応の原因と危険因子を明らかにするために複数の研究が実施されている。

注意と禁忌

年齢

6ヶ月齢未満の乳児はそれより年長の小児と比べ黄熱ワクチン接種に伴う神経障害(ワクチン後脳炎)という重症の副反応への感受性が高い可能性があり、6ヶ月齢未満の乳児での黄熱ワクチン接種は禁忌である。この合併症の危険性は年齢依存性である。ワクチンメーカーおよびFDAは脳炎の危険性があるため9ヶ月齢未満の乳児へのワクチン接種は避けるべきと勧告している。またこうした個人が黄熱の常在感染している地域内の諸国あるいは黄熱流行が発生したことのある諸国へ旅行することは可能な限り延期あるいは中止すべきである。特別な状況で、黄熱が常在感染している諸国への旅行を予定している9ヶ月齢未満の乳児へのワクチン接種を考慮している臨床医は、Division of Vector-Borne Infectious DiseaseかCDCのDivision of Global Migration and Quarantineへ相談すべきである。1990年-1998年にVAERSに受動的に報告された副反応症例についての最近の解析から、若年者と比較して65歳以上の高齢者はワクチン後の全身性の副反応の危険性が高い可能性があると示唆されている。65歳以上の旅行者は自分の旅行先での黄熱ウイルスへの感染曝露の危険性を前提として、ワクチン接種による危険性と利益に関して主治医と相談すべきである。南アメリカやサハラ以南のアフリカでは黄熱感染伝播が、感染感受性のある人々が居住し媒介蚊であるネッタイシマカが発生している都市部にまで拡大し、黄熱が依然として多くの感染患者や死亡患者の原因となっている。しかも、ワクチン未接種の米国人旅行者が南アフリカで致死的な黄熱に感染している。従って、希にはこうした副反応が発生するが、高リスク地区への旅行者における黄熱ワクチンは重要な感染予防策として強調されるべきであろう。

妊娠

妊娠中の黄熱ワクチンの安全性は確立されていないので、ワクチン接種は感染常在地区への旅行が不可避で、感染曝露の危険性が実在する時にのみ行うべきである。妊娠中に黄熱のワクチン接種を受けた母親から誕生した新生児81名について行われた2つの研究で発表された臨床的な評価に基づけば、YF17D株による胎児への感染率は低く、先天的な異常とは関連づけられていない。妊娠初期に黄熱17Dによるワクチン接種を受けた女性についての最近の症例-対照研究では、自然流産の相対危険度は2.3であったが、対照群との統計学的有意差はなかった(95%信頼区間= 0.65-8.03)。アフリカおよびヨーロッパでの限定的な臨床治験からの情報では、黄熱の常在地域で蚊による刺咬を避けられない妊娠中の女性にワクチン接種を行うことで発生する危険性は、黄熱感染の危険性よりも低いことが示された。妊娠中の女性への黄熱ワクチン接種が実際に感染の危険性があるのではなく、国際旅行規約のみが原因であるなら、担当医から忌避証明を入手するようにすべきである。黄熱感染の危険性の高い地域に旅行することが避けられない妊娠中の女性はワクチン接種を受けるべきであり、黄熱ワクチンの安全性とは関係なく、新生児について先天性の感染や黄熱ワクチンが原因の副反応について注意深く経過観察すべきである。もし妊娠中の女性に対して黄熱ワクチンが必要と思われる場合、ワクチンに対する免疫応答を記録するため血清検査を考慮する余地がある。なぜなら途上国での妊娠中の女性でのセロコンバージョン率は明らかに他の健常な成人や小児と比べ低いと報告されているからである。血清検査の必要性については、適切な州の保健局、Division of Vector-Borne Infectious DiseaseあるいはCDCのDivision of Global Migration and Quarantineへ相談すべきである。

授乳中の母親

このワクチンが母乳中に分泌されるかは不明である。17Dワクチン接種を受けた授乳中の母親から乳児への副反応事例やウイルス株の伝播は報告されていない。しかし、予防的には、17Dウイルスが授乳中の乳児に伝播する理論的な危険性が存在する以上は、授乳中の母親へのワクチン接種は避けるべきである。授乳中の母親が危険性の高い黄熱常在感染地区へ旅行することが避けられない場合は、ワクチン接種は可能である。

免疫不全状態

以下の個人に対しては黄熱ワクチンウイルス感染が理論的には脳炎の危険性につながる, 1)AIDS患者。

2)HIVに感染しHIV感染に伴う他の症状を発病している患者。

3)白血病患者、リンパ腫患者、全身性の悪性腫瘍。

4)コルチコステロイド薬、アルキル化薬、抗代謝薬および放射線治療で免疫抑制状態にある個人。

こうした患者は黄熱ワクチン接種を受けるべきでない。もし黄熱感染地域への旅行が必要な場合は、そうした旅行に伴う危険について情報を入手し、媒介蚊を避ける方法を学び、主治医から忌避証明を入手すべきである。低用量(プレドニゾロン20mg/日またはそれと同等量の薬物)、短期(2週間未満)の全身性コルチコステロイド治療またはコルチコステロイドの関節内、腱鞘内注射では、黄熱ワクチン被接種者が感染の危険性を増すほどの免疫抑制は生じない。

HIVに感染しているがAIDS を発病していないあるいはその他の合併症を発症していなくて、検査で適切な免疫機能が維持されていることが確認されている患者は、黄熱ウイルスの曝露が避けられない可能性がある場合には、ワクチン接種の選択もありうる。神経障害や脳炎の理論的な危険性は存在するが、こうした被接種者での黄熱ワクチンの危険性を評価した臨床的、疫学的な研究は報告されていない。無症候性のHIV感染者に黄熱ワクチンを接種するのが、実際に感染の危険性があるのではなく国際旅行規約のみが原因であるなら、担当医から忌避証明を入手するようにすべきである。黄熱感染の危険性が高い地区への旅行が避けられない無症候性のHIV感染者には黄熱ワクチン接種の選択肢が示されるべきであるが、その際可能性のある副反応について慎重に経過観察を受けるべきである。

無症候性のHIV感染者での黄熱ワクチン接種のセロコンバージョンに関するデータは限定的であるが、そうした被接種者でのセロコンバージョンは減弱していることが示されている。17D黄熱ワクチン接種後1ヶ月後、CD4陽性Tリンパ球数が200/mm3以上のHIV陽性成人33名ではわずか70%しか中和抗体の誘導が認められなかった。黄熱ワクチンは一般的には健常成人の90%以上で抗体誘導が認められる。17D黄熱ワクチンと麻疹ワクチンの同時接種を受けたHIV感染乳児は、18名中3名しか中和抗体誘導が認められなかったが、HIV陰性で同時接種を受けた乳児57名では74%に抗体誘導が認められた。無症候性のHIV感染者での黄熱ワクチン接種の効果が被感染者に比べ小さい可能性が示唆されているので、旅行前にそうした被接種者でのワクチン接種により誘導された抗体価検査を考慮すべきである。血清検査の必要性については、適切な州の保健局、Division of Vector-Borne Infectious DiseaseあるいはCDCのDivision of Global Migration and Quarantineへ相談すべきである。免疫不全患者やHIV感染者の家族は、自身が黄熱ワクチンの禁忌でない場合、黄熱ワクチンの接種を受けることが可能である。

過敏反応

黄熱ワクチンはニワトリ胚中で作製されるので、鶏卵に対するアレルギーのある個人には接種すべきではない。一般的に鶏卵、鶏卵製品を食べられる人であればワクチン接種を受けることができる。もし国際旅行規約のみが卵アレルギーの人に黄熱ワクチン接種を行う理由となっている場合、忌避証明を入手すべきである。卵アレルギーが疑わしい人で感染の危険性が高いため黄熱ワクチン接種が必要となった場合、医師の観察の下慎重に皮内反応が可能である。皮内検査に関する特別な指示はワクチンに添付された能書に記載されている。

他のワクチンとの同時接種

黄熱ワクチンと他のワクチンを同時に接種すべきかは、旅行者が旅行前に望ましいワクチン接種を完了できる利便性と、同時接種で起こりうる相互作用についての情報に基づいて決定すべきである。以下の情報はこうした決定に役立つものと思われる。

限定的な臨床研究ではあるが、黄熱ワクチンによる抗体誘導は一部の他のワクチンの同時あるいは1-30日間隔での接種によって阻害されないことが示されている。麻疹、天然痘、黄熱ワクチンは組み合わせて接種されてきた。BCGと黄熱は相互作用無く同時接種されてきている。

黄熱ワクチンはA型肝炎ワクチンまたはB型肝炎ワクチンと同時に接種可能である。さらに、黄熱ワクチンは腸チフスワクチンTyphim V1(ペンシルバニア州、Aventis Pasteur社)および髄膜炎ワクチンMenomune(Aventis Pasteur社)との同時接種が行われてきているが、これら3種のワクチンによる抗体誘導効果に影響があったとする報告はないし、特に安全性の問題についての報告もない。黄熱ワクチンと狂犬病あるいは日本脳炎ワクチンとの相互干渉についてのデータは存在していない。

黄熱ワクチンと市販の免疫グロブリン筋肉内注射の同時接種に関する前向き研究では、黄熱ワクチンに対する免疫応答は対照群と差が認められなかった。クロロキンはin vitro で黄熱ウイルスの複製を阻害するが、抗マラリア薬予防内服中の個人では黄熱ワクチンによる抗体誘導に不利に作用することはない。

サーベイランス及び研究の優先順位

黄熱ワクチンは最も安全なワクチンの1つと考えられている。これらの勧告内で報告された副反応の頻度は低いため、米国内での黄熱ワクチン接種件数が比較的限られていることを考えると、以前に発生した散発的な重症副反応事例が十分に評価され調査されていない可能性がある。不都合なことに、黄熱ワクチンは、流行の最中やワクチン接種に伴う副反応サーベイランス自体が困難であったり、黄熱ウイルス野性株によって副反応が隠されてしまう可能性がある地域で最も広く使用されている。YF17Dワクチンに伴う副反応報告は、黄熱の活動性増加のため大規模ワクチン接種の動きの高まりと合わせ、YF17Dワクチンの危険性を定義し定量し、その病因を明確にするためのさらなる調査の重要性を強調している。従って、以下の活動が勧奨される。

・米国内の承認黄熱ワクチンセンターおよび他国の黄熱ワクチン接種施設で、黄熱ワクチン接種後の全身性の副反応に関するサーベイランスを強化する。米国内での黄熱ワクチン被接種者の大部分は軍兵士とその被扶養者である。米軍兵士でのワクチン安全性情報は一般の米国市民の見本とならない可能性がある。しかし軍関係者は後向き研究、前向き研究の両方で黄熱ワクチン接種に伴う副反応の危険性を定量することに新たな情報を提供する優れた情報源なる可能性がある。従って、米国軍は、年間の被接種者数、黄熱ワクチン接種に伴う可能性のある副反応事例の実数を含め、その黄熱ワクチン接種計画についての情報を共有することが望まれる。

・異なる製造段階で黄熱ワクチンが適切であるか検討するため霊長類での神経毒性試験が必要とされたが、最近一部の患者ではこれまでには確認されていなかった臓器の障害(肝、腎、心など)が報告されている。臓器に関する安全性検査は第2、4、6日のウイルス血症を想定する検査から成っている。肝、腎、心機能およびその障害をモニターする追加的な検査を考慮すべきである。

・黄熱ワクチン接種後の臓器障害や神経障害事例を臨床的、疫学的、検査データから適切に評価するためのプロトコールを作成すべきである。このプロトコールでは因果関係の確定課程に主眼を置くべきであり、組織病理学、ウイルス分離、分子生物学的解析、患者検体とワクチンロットからの検体での病原性試験を強調すべきである。

・黄熱ワクチン接種後の神経障害、臓器障害に関係する、ワクチン特有のおよび宿主側の危険因子を特定するための新たな研究が必要である。

・黄熱感染常在地区への旅行者の一部が黄熱ワクチン接種を受けない理由を特定するための研究もまた必要である。それと関連して、適切なワクチン接種を受けない旅行者の割合を減らす有効な方法を開発するための研究も必要である。