2002年11月末までのサーベイランス中間報告。

MMWR, 51(50);1129-1133. 2002年1月1日〜11月30日までのウエストナイルウイルス流行に関するサーベイランス中間報告。

感染者数・感染動物数は増加を続け、ウイルス活動が報告された地域も拡大している。ヒトへの感染の危険性が存在する地域でのウイルス活動性とその強度を検知するサーベイランス強化と、一般市民への蚊刺の予防教育、継続的包括的な蚊の征圧活動の必要性が強調される。ArboNETはインターネットを利用した54の州と地域の公衆衛生当局と地域の保健当局およびCDCによるサーベイランスデータネットワークである。WNV活動性は、2001年には27州とDCでの359郡から報告されたが、2002年には44州とDCでの2,289郡から報告された(Figure 1)。米国で最初にWNVが発見された年には16州1,929郡からであった。1999年から2001年の間の感染者数149名であったが、2002年には3,389名が報告され、多数のWNV感染陽性の鳥類、ウマ、蚊族も同様に報告された。



ヒトのサーベイランス;

2002年には、3,389名の報告されたWNV感染症患者中、2,354名(69%)はウエストナイル髄膜脳炎(WNME)症例であり、704名(21%)はウエストナイル熱(WNF)、331 名(10%)は分類不能であった。ヒト感染例は37州およびDCの619郡から報告されたが、イリノイ、ミシガン、オハイオ、ルイジアナ、インディアナの5州で2,179名(64%)を占めた。そのうちの4州イリノイ、ミシガン、オハイオ、ルイジアナとテキサス州で計1,572例のWNME症例を数えた。発症時期は南部の州では6月10日から11月4 日、北部では7月10日から10月28日にわたり、WNME症例は南部では北部より1週間早くピークを迎えた(Figure 2)。報告された全症例の発症年齢の中央値は55歳(生後1ヵ月〜99 歳)、WNME症例の中央値59歳(生後1ヵ月〜99歳)、WNF症例の中央値48歳(1歳〜93 歳)であった。WNME 2,354例中199例(9%)、WNF704例中2例(0.3%)が死亡したが、いずれも80歳以上の高齢者であった。201名の死亡患者の年齢中央値は78歳(24 歳〜99歳)であった。(Table)








動物のサーベイランス;

WNV活動性を認めた2,289郡中、1,719郡(75%)を42州とDCが占め、1月10日から11月 7日までに14,122羽の死亡したWNV感染鳥類(カラス7,719羽、アオカケス4,948羽、その他92種1,455羽)が報告され、8月10日が最終日となる週がピークであった。検査対象となった死亡したカラスでは10,036羽中77%、その他の鳥類種では16,132羽中40%がWNV陽性であった。ヒト以外の哺乳類で報告のあった9,157例中9,144例(99.9%)はウマ感染例で、他はイヌ、リスなどであった。報告は1月3日〜11月8日の期間に、38 州1,374郡にわたった。一部の郡、州では蚊、捕獲した野生のトリ、感染検知用ニワトリが調査されてた。88種約130万匹の蚊が検査され、26種4,943プールからWNVが検出されたが、うち2,717プール(55%)はCulex(アカイエカ)属であった。1999年以来36種の蚊がWNVを媒介すると報告された。WNV抗体が陽性であった捕獲された野生のトリは144羽、抗体陽性化した検知用ニワトリは366羽にのぼった。WNV活動の最初の徴候;流行の最初の兆候は、1,420(62%)の郡で死んだ鳥、660郡(29%)でウマ、84郡 (4%)でヒト、18郡(0.8%)で検知用鳥の抗体陽性、77郡(3%)で感染蚊、6郡(0.2%) で捕獲した野生のトリでの抗体陽性であった。24郡で複数のサーベイランスシステムが同じ日に陽性になり、619郡中531郡(86%)ではヒト感染症例を報告したが、そうした郡では感者発生に中央値で33日先行して(範囲:1〜252日)、死亡した鳥、ウマ感染例、鶏、蚊でのWNV陽性が報告された。1,670郡(73%)ではヒト感染患者の発生はなく動物のみの感染であった。(CDC報告)

MMWR編集者ノート:

2002年の米国でのWNV流行は、記録されたアルボウイルス性髄膜脳炎流行では西半球で過去最大であり、史上最大のウエストナイルウイルス髄膜脳炎流行であった。感染流行を含むウイルス活動性は米国中央部とくに五大湖地域が最大で、西海岸に拡大した。カナダの保健当局も5州でWNV活動性を報告した(文献2)。また2002年には初めて臓器移植、輸血や血液製剤、授乳を介した(可能性)、ヒトからヒトへの直接感染が報告された(文献3,4)。さらに子宮内感染(文献5)や急性弛緩性麻痺(AFP)を呈したWNME患者の一部にはポリオ様症状の合併も米国で初めて報告された(文献6)。ヒトでの流行のピークは8月後半で、南部は北部に約1ヵ月先行した。New York市内都市部でも4年連続で報告されている。流行地でのヒト感染の長期化と持続的感染伝播は、6月初めから11月までのヒトサーベイランス体制の強化と、ウイルス性脳炎の好発時期の脳炎、髄膜炎、急性弛緩性麻痺、非定型熱性疾患の鑑別としてWNV疾患を考慮に入れる必要性を強調している。2002年のWNV流行は1975年に主にミシシッピ川とオハイオ川流域で患者2,100名、死亡患者170名を出したSt. Louis脳炎(SLE)に似ている(致死率: 8%)(文献7)。WNVとセントルイス脳炎ウイルスはいずれも近縁なアルボウイルスで、主にアカイエカによって媒介され、鳥類で増幅されるが、SLEウイルスはトリやウマには病原性が無い。2002年の感染者は前年に比較してWNFの患者が多く、より軽症の患者でのWNVの検査・診断を反映している。WNFはWNMERより若年者に多い傾向にある(文献8)。また今年のWNME患者年齢の中央値(59歳)は1999〜2001 年(66歳)に比較して若いが、WNFをWNMEと分類した誤りが一部含まれると思われる。致死的WNMEの年齢中央値は前年と同様で、高齢者ほどWNMEや死亡の危険は増えるが、何れの年齢層でも重篤な神経症状を呈しうる。鳥や馬のサーベイランスは、それぞれの地域でヒトWNV感染者発生に先行するので、WNVの地理的伝播や活動性の有効な指標となる。2002年にWNV感染し死亡した鳥類を報告した郡数は前年比5倍、WNV感染し死亡した鳥類個体数は前年比2倍となった(文献1)。本年はカラス、アオカケス類がWNV感染鳥類の90%を占め、中でもカラスが最多であった。カラス以外の鳥類がWNV 活動性の最初の指標になった地域は144郡(6%)に過ぎず、州政府・地方保健当局は死亡したカラス類のサーベイランスを引き続き強化し、可能なら他の鳥類にも目を向けるべきであろう。ArboNETに報告されたウマ感染頭数は前年比12倍で、伝染はより長期にわたり、新たに9つの州で感染が確認された(文献1)。馬の感染の地理的・時間的分布は中西部〜北中央部ではヒトの流行に一致しており、ウマ自体がWNV増幅にはあまり寄与していない(文献9)が、その地域でのヒトの感染リスクの指標になり得ることが示された。今年米国でウエストナイルウイルス媒介蚊として最も重要であったのはアカイエカ(Culex)属の3種であった。ArboNETデータは実際のウイルス分布やWNV伝播強度を下回り、正確に反映していない可能性がある。その理由とは3つあり、2002年は報告された死亡したトリの27%(前年50%)しか検査されていないこと (多くの州や郡当局は検査検体数が多すぎてすべてを処理しきれなかった)、データが地方のコーディネーターに依存しており未報告例が相当数あると思われること、脳炎 /髄膜炎症例の解釈が州毎に異なる可能性があり、ウエストナイルウイルス熱の定義に全国的な診断基準がないことなどがあげられる。2002年の流行は、ヒトの感染危険を減らすためにWNV流行時期早期の生態学的サーベイランスと、蚊の撲滅、鳥類と蚊の間の増幅サイクルの縮小などの公衆衛生活動の強化の必要性を示している。
 1) 蚊の曝露を減らす居住環境の改善や蚊の忌避法の教育、
 2) 長期的な、地域レベルでの蚊のサーベイランス・根絶法の確立(文献10)、
 3) 都市や郊外におけるCulex属の蚊の撲滅の優先的実施などを含めた予防活動を継続すべきである。

文献: (1)〜(10) 。